配布法話 今年が終われば来年 今生が終われば浄土
今年が終われば来年 今生が終われば浄土
十二月十五日放送の『探偵!ナイトスクープ』に「余命宣告を受けた妻にプロポーズしたい」という八〇歳の男性が出ていました。
漫才師の田村裕さん(麒麟)がお宅に伺って「もう結婚してるのに、なぜ今更プロポーズするんですか?」と聞くと、その方は「今生で貧乏して苦労をかけたから、来世では頑張って、もっと幸せにしてあげたい」と涙ながらに想いを語ったのです。
なんと、そのプロポーズは来世で結婚するためのプロポーズだったのです。
その後、色々な準備をし、みんなで病室に行き、寝たきりのお母さんに正装をしたお父さんが語り掛けます。
「今生では貧乏して苦労させてきたけれど、来世では絶対に苦労させない。来世も大事にするから優しくしていくから。結婚してください」
そう言ってお父さんが真っ赤な花束を手渡すと、お母さんは「はい」とそれを受け取りました。母さんは「いっぱい愛してくれてるから」と言って嬉しそうにしていました。
それを見て私は(お父さんは来世の幸せを願っているけど、すでにお母さんは深い愛に包まれた幸せの中にいるのだな)と感じました。
現代人の多くは「生まれる前は何もなく、死んだ後も何もない」と考える人が多いようです。この世でどんなに愛し合っていても、互いが無になっていくという人生観を持って生きていくのは、なんとも寂しい気がします。
お経には倶会一処(くえいっしょ)という言葉が説かれています。この命が終わり、今生でお別れをしても、また会っていく世界があると説かれているのです。その世界のことを、私たちはお浄土と呼ばせていただいています。
阿弥陀仏という仏さまは、さよならばかりの私たちをあわれみ、必ず会える世界を用意してくださいました。
一年が終われば、新しい一年が始まります。この人生が終われば次はお浄土で仏さまとしての命が始まります。お浄土は、懐かしい人たちが、あたたかく温かくむかえてくれる世界です。
「なもあみだぶつ」のお念仏の中に、「さよなら」ではなく「またね」の世界が今ここで恵まれています。
南無阿弥陀仏
副住職 保田正信
副住職 保田正信
【聖典のことば】
●かくのごときの諸上善人とともに一処に会することを得ればなり。(阿弥陀経/註釈版聖典一二四頁)
●この身は、いまは、としきはまりて候へば、さだめてさきだちて往生し候はんずれば、浄土にてかならずかならずまちまゐらせ候そうろふべし。(親鸞聖人御消息/註釈版聖典七八五頁)