掲示法語・配布法話 火宅無常 飛び込み救う 阿弥陀さま
毎月はじめに掲示板の法語を貼り替え、その法語にちなんだ法話を配布法話として門前に設置しています。実際の配布法話にはお寺の近況や予定も載っていますので、お近くの方は是非手にとって読んでみてください。
一念寺 3月のおたより 2024
火宅無常 飛び込み救う 阿弥陀さま
【本文】
『讃仏偈』の最後に「たとえこの身をあらゆる苦しみの中においたとしても、私はあなたを救うために修行を成し遂げ仏に成る。苦しみに耐え忍び、決して後悔することはない」という法蔵菩薩の誓いの言葉があります。自分よりも相手を大切に思う慈悲の誓いです。
二〇二三年、カリフォルニアの消防士ジェフ・オースさんのもとに見知らぬ父子が尋ねて来ました。二五歳のザビエル・ディンプルズさんと、ザビエルさんの二歳になる息子さんです。ジェフさんが話を聞くとザビエルさんは「二三年前、私はあなたに救われた」と言うのです。なんと、二三年前の火災でジェフさんが火の中から救った二歳の少年がザビエルさんだったのでした。ザビエルさんは成長し父親になり、あの時の自分と同じ歳に成長した息子をジェフさんに会わせようと尋ねて来たのです。
一九九九年、ジェフさんは火の中に飛び込み、ザビエルさんを屋外に運び出しました。既に心肺停止の状態でしたが、それでもジェフさんは諦めずに心肺蘇生法をし、その甲斐あってザビエルさんは一命をとりとめたのでした。
ザビエルさんは「生きるチャンスをくれたジェフさんには恩返しすることなど決してできません。私ができるのはジェフさんと私の息子のために素晴らしい人生を送ることだけです」と言います。それに対して、ジェフさんは「二三年前、君の命を救うことができるかどうか、私は本当に怖かった。君の命が救われたことにとても感謝している」と応えたのでした。
救った側のジェフさんまでもがザビエルさんに感謝しているのは、ザビエルさんを救うことでジェフさん自身が「消防士に成って本当に良かった」と思えたからなのでしょう。
この世は火宅無常(※)の世界です。煩悩の火に心身を焼かれ自分ではどうする事もできず力無く死んでいかねばならない私を、法蔵菩薩はご覧になり、「必ず救うぞ!」と命がけの修行に耐えて南無阿弥陀仏に成り、この世界に飛び込んで来てくださいました。
そんな阿弥陀様ですから、お念仏の日暮らしをする私を見て「阿弥陀仏に成って本当に良かった」と喜んでくださっていることでしょう。
南無阿弥陀仏 副住職 保田正信
【聖典の言葉】
●たとひ身をもろもろの苦毒のうちに止くとも、わが行、精進にして、忍びてつひに悔いじ。(『大無量寿経』/『註釈版聖典』一三頁)
●如来の作願をたづぬれば 苦悩の有情をすてずして回向を首としたまひて 大悲心をば成就せり (『正像末和讃』/『同』六〇六頁)
●煩悩具足の凡夫、火宅無常の世界は、よろづのこと、みたもつてそらごとたはごと、まことあることなきに、ただ念仏のみぞまことにておはします (『歎異抄』/『同』八五四頁)
※火宅=煩悩に満ちた娑婆世界を燃えさかる家に喩える